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米國のモンロー主義
2022-09-20


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米國は此のモンロー主義を高調すると同時に、熾んに外國の資金を集中するに勉め、又外國の移民を歡迎し、大陸鐵道を敷設し、原野を開墾し、農工の業を奬勵し、更に其政策として世界第一主義を唱へ出したのである。即ち借金も世界第一なら、富も世界第一であらねばならぬと云ふ如くに何事でも世界第一主義を唱へて積極的に其の民心を鼓舞し其の國力を増進した結果、太平洋沿岸十三州人口三百萬から起つた米國が百餘年の間に四十八州人口一億以上に達するに至つた所以である。斯の如にして産業勃興資本豐富雄を世界に稱するに至つた米國が、尚何時迄もモンロー主義の舊形式を墨守して獨り國内の開發にのみ齷齪として居る筈が無い。彼れは國内に於けるる開發の事業其一段落を告ぐるや果せる哉勃々たる野心を提げ、此に對外的世界第一主義の經綸を行ふべく東洋の舞臺に躍出して來たのである。
 元來米國人の主腦となつて居るアングロサクソン人種は、冒険的事業を喜び、好んで大事業を企つる性格を持つて居る。夫れはアングロサクソン民族のみにあらず其他の白色人種も米國に移住して來た抑も抑もが冒険的思想を懐いて來た者のみである。是れ等が相集合し互に厭くなき豺狼の心を以て獨占的事業を企てた事であるから、其の結果が大トラストを造り大資本主義を實現して政治界迄自由にすることゝなつたのも自然の勢いである。傑物大統頷ルーズウヱルト氏さや之れが幣を認めトラスト征伐を始めたけれども、大資本家の勢力は之れを根本から破壊することが出來ず、僅かにトラストと云ふ名稱を避くるに過ぎなかつたのである。斯くして米國の事業といふ事業は悉く大資本家の掌中に獨占せられて仕舞つた。鐵道事業には鐵道王と稱せらるゝ者あり、石油事業には石油王、鑛山事業には鑛山王、其の他在らゆる事業も悉く十指を數へざる大資本家の手に収められ、最早米國の利權は無くなつたのである。其の殘つて居るものは恰かも富豪の倉庫の中に納められて居る財産の如く他人は容易に取ることの出來ぬことになつて來たのである。
 米國も此處迄來れば一變せねばならぬ時期に到着して來た。歐洲戰爭は種々の原因あるのであるが其の重なる原因の一も、畢竟するに世界の富を二、三強國の手に集め、互に其の富を占奪せんとする慾望から起つたに過ぎぬのである。米國も之れど同じく少數の資本家のみにて國内の富を握つて仕舞へば、次には他の持つて居る者の富を奪はんとして競爭の起るは冤るべからざる運命である。此の運命を轉ぜんとするには國民の慾望を海外に導く外はない。是れが米國のモンロー主義を一變して對外的侵略主義を執るに至つた重なる原因である。

註:原文の「田務」→「國務」に訂正。

引用・参照・底本

『對米國策論集』 國民對米會編 編者 葛生能久 大正十三年十二月二十五日發行 發行所 讀賣新聞社

(国立国会図書館デジタルコレクション)

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