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『對米國策論集』 國民對米會編 編者 葛生能久

　米國の東洋に對する野心　内田良平氏

　(三〇八-三一五頁)
　第二　米國の侵略主義と太平洋政策　　　　　　2022.09.21

　米國がモンロー主義を一變して侵略主義の鋒鋩を露はすや、最初は米大陸に於ける其の鄰境に對し、攻伐的騙詐的行爲を以て侵略の慾望を縱にし、無限なる領土の擴張を圖つたのであるが、其の愈々東洋に乘り出して來た第一歩は明治三十一年一八九八年の米西戰爭である。之れを名分の上から見ると米西戰爭の如きは實に無名の師と言はねばならぬ。米國では西斑牙が米國の軍艦を沈めたと言ふことを口實としで居るけれども、夫れは何ちらが其の軍艦を沈めたのか今に疑問とされて居る所である。當時西斑牙には比律賓が反抗しで居たのであるから、之れを奇貨として比律賓侵略の爲めに書いた芝居と見られて居る。然かも米國が西斑牙に勝つたは當然のことで、彼は其の勝つた暁に玖馬を買収し、比律賓を占領したのであるが、比律賓人は最初米國が其の獨立を助けで呉れるといふから西斑牙の羈絆を脱せんが爲めに之と其の同盟を結んで之れに信頼して居たのを、何時の間にやら其の國土は米西間に直接の取引きが濟み米國のものとなつて居た。比律賓人は再び喫驚して反抗したけれども力敵せず、泣く泣く米國に屈從するに至つたのである。
　米國が斯くも比律賓人を騙まし取りにした目的は何處にあるか。夫れは勿論其の領土擴張慾を充たすにあつたのではあるが、之れよりも寧ろ太平洋上に根據地を得て支那に其の手を延ばす踏み石を得やうとするに在つたことは申す迄もない。即ち彼は其の比律賓を得るや否や、明治三十一年には寡婦王を籠絡して布哇を併合し、次で直に支那に殺到して來たのである。
　當時支那は恰かも日清戰爭後で、列國は爭ふて之れが分割に没頭しつゝある際であつたが、米國は之れを機として徐ろに高處大處から其の目的を遂げやうと圖つたのである。是れより先き支那公使宋紀澤が駐英中演説して「支那は五千年來の古き文明を有し且つ四億の民衆と無限の天産物を持つて居る。然かも今日の振はざるは恰かも獅子の眠りの如きものである。一旦醒め來らば決して列國に劣るものではない｣と喝破したので、阿片戰爭に敗れて香港を取られ、英佛聯合軍に破られて専官居留地を各地に開き、又た露酉亜には烏蘇里一帶の地を割譲せらるゝ等所謂分割の端は既に開けて居たのを、此の宋紀澤一場の演説によつて僅かに其の勢を中止せしむることが出來たのであつたが、會ま日清衝突に及んで支那は世界から未だ問題にされて居なかつた日本の爲めに破られたので「支那は矢張り獅子にあらず眠れる豚なりき｣とて再び分割的角逐を始めたのである。先づ第一に獨逸は膠州灣を租借し、第二に露西亜は東洋の平和に害ありとして日本から還附せしめた旅順及び大連灣を租借し、第三に英國は威海衛並に香港の對岸九龍地方を租借し、佛國は廣西省の廣州を取り、伊太利など迄も之れに倣つて三門灣の一地角を得やうとして起つて來た。此の際であつたから米國にして此の時若し歐洲列國の爲す所に追随して支那に要求したならば、支那に一地角の根據地を得る位は何んでもなかつたのである。けれども彼れの野心は決して列國の餘瀝を舐るが如き小なるものではない。彼は支那の領土保全、門戸開放、機會均等の主義を高調し、列國の遣り方と全然異なる方面に手を着けて徐かに乘ずべき機會を窺つて居たのである。異なる方面とは支那に於て列國の未だ手を著けざる方面、即ち文化的社會的施設を以て支那四億の人心を収攬しやうと圖つたのである。彼は宣教師を送りて教會堂、病院、學校等を附屬せしめ、之れに莫大な費用を投じて目的の徹底を期したのである。今日長江一帶の地方だけでも教會堂二百六十六箇所、其附屬學校六十三ヶ所、此外小規模なる教會、學校、病院等も亦殆ど數へ切れぬと云ふ程の夥しき數に上つて居るのは實に之れが爲めである。