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「ReArm Europe Plan」
2025-03-08


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【概要】 
 
 「ReArm Europe Plan」は、EU加盟国の防衛能力を強化するために提案された大規模なプランであり、2025年の4年間で8000億ユーロの防衛支出を目指している。この金額は一見印象的であるが、その実現には多くの困難が伴う。

 このプランは、EUがトランプ元大統領のウクライナへの軍事支援凍結の決定に即応し、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が次の日に発表したもので、主な内容は以下の通りである:

 1.加盟国の防衛支出を平均1.5%増加させ、次の4年間で6500億ユーロを追加する。
 2.防衛投資のために1500億ユーロ相当の融資を提供する。
 3.EU予算を活用する。
 4.既存の2つの機関を通じて民間資本を動員する。

 この8000億ユーロの防衛支出額は、一見するとはるかに印象的に思えるが、現実的には多くの課題が予想される。第一に、防衛投資を加盟国間で分配するためのメカニズムが存在しないため、提案されている「欧州軍」などが実現する可能性は低いとされている。また、NATOがその代わりを務めることも難しい。NATOは米国が主導しており、多くのヨーロッパ諸国がその影響力に不信感を抱いているからである。

 仮に防衛投資の分配メカニズムが合意されたとしても、次の課題は生産能力の拡充と、残りの需要を海外から調達することである。この段階で1500億ユーロの融資が有効となり、製造業者が生産能力を拡大するための先行購入が正当化されるが、この融資を巡って主要加盟国間で競争が生じる可能性もある。

 フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデンなどは自国でできるだけ多くの兵器を生産したいと考えており、他の加盟国への販売も求めるだろう。一方、ポーランドは、弾薬などの輸入依存から脱却するために国内生産を強化する可能性がある。また、残りの兵器や装備品を海外から調達する必要があるが、これも競争が激しくなるだろう。

 アメリカと韓国はEU加盟国への主要な供給国であるが、アジアの新冷戦が進行する中で、これらの国々も自国の需要に対応しなければならず、ヨーロッパの需要が完全には満たされない可能性がある。もしすべてのニーズが満たされた場合でも、兵士や装備の移動を容易にするために「軍事シェンゲン」を導入する必要があり、これは多くの官僚的な作業を伴う。

 「ReArm Europe Plan」の他の重要な要素として、バルト三国とポーランドの国境に沿って「欧州防衛ライン」を構築する計画がある。このプロジェクトは、EUが多国間防衛構想をどれだけ効果的に組織できるかを示す試金石となる。加えて、この防衛ラインは、急速に反応するための抑止力だけでなく、実際に侵攻を行うための拠点を提供することも意図されている。しかし、これは想像以上に難しい組織作業であり、実現には時間がかかるだろう。

 最後に、この「ReArm Europe Plan」の最大の障害となり得るのはポーランドである。ポーランドはNATOで3番目に大きな軍を保持しており、ロシアに対抗するための拠点として重要な役割を果たす可能性がある。特にウクライナ戦争において、ポーランドはその領土をEU軍のために提供することに慎重であり、欧州軍の前進基地としての役割に対して警戒心を持っている。

 ポーランドはすでに「欧州軍」の参加を拒否しており、その立場は、EU内での軍事介入のコントロールを完全に握っているわけではないという点で非常に重要である。ポーランドにとって、米国は最も信頼できる安全保障の提供者であり、そのため、EUよりも米国との関係を優先している。これにより、ポーランドの政策は、将来的にEUの防衛政策に対する影響力を持つことになるだろう。

 結論として、ポーランドが積極的に「ReArm Europe Plan」に参加しない場合、このプランは期待を大きく下回る可能性が高い。ポーランドが完全に参加しても、ヨーロッパ軍がポーランドで待機してウクライナへの介入を行う権限を持たなければ、このプランの成功は限られたものとなるだろう。

【詳細】 


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