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【桃源寸評】
<捕らぬ狸の皮算用>である。
【寸評 完】
【概要】
ドナルド・トランプが、クリミアをロシア領として正式に認める可能性があると報じている。これは、トランプがロシアの立場を支持するというよりも、ウクライナとの交渉を促進し、紛争を終結させるための戦略的な動きである可能性が高い。
セマフォー(Semafor)は、事情に詳しい匿名の関係者2人の証言をもとに、トランプがクリミアをロシア領と認め、さらに国連に対しても同様の認識を促すことを検討していると報じた。この決定が実行されれば、アメリカの主導によって他の西側諸国やグローバル・サウス(新興国・発展途上国)の国々も、アメリカの報復を恐れずに同様の対応を取る可能性がある。
もしアメリカがクリミアのロシア帰属を認めれば、2014年の併合を理由とする対ロシア制裁を解除し、さらに二次制裁(第三国企業がロシアと取引することへの制裁)の正当性も失われる。ロシアはこの状況を利用し、クリミア市場への参入を希望する国々に対して正式な承認を求める可能性がある。この動きは、アメリカとロシアが共同で国連総会(UNGA)決議案を提出することで具体化するかもしれない。
また、ハンガリーやスロバキアなど一部のEU加盟国がトランプの決定に追随すれば、EU内部の分裂を助長し、対ロシア制裁の維持を困難にする可能性がある。EUがこれを受けて独自に制裁を延長するか、方針転換を迫られるかの選択を強いられることになる。
軍事面においても影響は大きい。アメリカがクリミアをロシア領と認めた場合、ウクライナによるクリミアへの攻撃を容認しない方針をとる可能性が高い。さらに、NATO加盟国にも同様の対応を求めることで、ウクライナ軍が西側の武器を用いてクリミアを攻撃することを阻止しようとするだろう。特に、アメリカの外交官や投資家がクリミアに拠点を持つことになれば、それらに対する攻撃はアメリカによる厳しい報復を招くことになる。
一方で、トランプが認めるのはクリミアのみであり、ドンバス(ドネツク・ルガンスク)、ヘルソン、ザポリージャの4地域についてはロシア領と認めない可能性がある。これにより、アメリカは2022年9月の住民投票を受けて発動した対ロシア制裁を継続する余地を残し、ウクライナがこれらの地域への攻撃を続けることを事実上黙認することになる。
この点について、ロシアがクリミアの承認を歓迎する一方で、他の4地域との扱いの違いが問題視される可能性がある。ロシア政府はこれらの地域を正式に自国領と位置づけており、クリミアのみを国際的に認めさせることで、逆に他の地域の地位が不安定になるとの見方もある。
また、停戦や休戦の合意が成立し、ロシアが4地域の全域を支配するに至らない場合、一部のロシア国内勢力から妥協との批判が出る可能性もある。ただし、ロシア政府の立場としては、軍事的な手段だけでなく、外交的な手段を活用して戦略目標を達成することも重要であると考えられる。最終的にはプーチン大統領が決断することになる。
さらに、ウクライナとロシアが正式な領土交渉を行う際、両国ともに憲法上の制約を受けることになる。ロシアは2020年の憲法改正により「領土の一部を放棄することを禁止」しており、プーチンが一方的に譲歩することは難しい。一方、ウクライナも憲法第73条により「国の領土変更には国民投票が必要」とされており、政権単独の決定で領土を譲渡することはできない。
このような状況を打開するための案として、ドンバス、ヘルソン、ザポリージャの3地域を特別な政治・経済ゾーンとする妥協案が考えられる。この構想では、ロシアとウクライナ双方が形式的には領有権を主張しつつも、実質的には自由な移動と貿易を可能にし、関税優遇措置を適用することで経済的利益を最大化することができる。