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【概要】
ウォーリック・パウエル(Warwick Powell)氏による論説であり、2025年4月19日に発表されたものである。主張の中心は、「グローバリゼーションは終わったのではなく、新たな形で始まっている」という点にある。著者は、「グローバリゼーションの終焉」といった言説に対して、それが誤解であり、むしろ「西洋的特徴を持つグローバリゼーションの終焉」であり、「多極的特徴を持つグローバリゼーション」の始まりであると論じている。
まず、従来のグローバリゼーションとは、米欧を中心としたトランスアトランティック経済圏の優位性に基づいていたが、その体制はすでに過去のものとなっている。現在進行しているのは、米国や西側諸国の中心性が相対的に低下し、代わって多極的な構造に移行しつつある新しい段階である。これは孤立主義や自給自足体制への後退ではなく、むしろ米国を含むか否かに関わらず、継続的かつ拡大された貿易、分散された資本流動、地域・準地域レベルにおける多極的な経済および安全保障ガバナンス体制によって特徴づけられる国際関係の深化である。
著者は、米国による関税戦争がこの多極的グローバリゼーションの加速をもたらす条件を生み出していると述べている。これからの国際的相互作用の基盤は、強化された協調関係である。
また、現在のグローバリゼーションの象徴的存在として、中国の存在が挙げられている。中国は150以上の国と貿易関係を持ち、製造業大国としての地位を確立しており、世界経済システムの混乱に対して安定装置としての役割を果たしている。その市場をさらに開放することで、他国の企業にとっての代替的な機会を提供し得る。
このような「多極的特徴を持つグローバリゼーション」を推進・加速するには、以下のような取り組みが必要であるとされている。
1.世界貿易機関(WTO)への支持継続
地域的・二国間協定よりもWTOを重視し、これを現代的要請に合致するよう改革することが求められる。こうした多国間制度を尊重することは、国際的信頼性と合意履行能力の証明につながる。
2.貿易協力の拡充
国内政策を調整し、サプライチェーンの最適化を図ることで、互恵的な発展が実現される。また、米国市場への依存度低下に対応して、需要を下支えする財政的手段を動員する必要がある。
3.デジタル標準の整備
国境を越えたサプライチェーン情報に関する標準化を進めることにより、税関などの規制当局が迅速な処理を行えると同時に、買い手や金融関係者がデータを活用した決済・精算を効率化できるようになる。
4.資本流動の促進とグローバル・サウス支援
世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった既存の制度が開発支援において十分な成果を挙げていないため、改革が必要であると同時に、BRICSによる新開発銀行やアジア開発銀行など新たな制度の役割拡大が求められる。これにより、国際的な不均衡な発展の是正に寄与する。
5.安全保障制度の見直し
全体安全保障を重視する制度の構築が重要であり、ゼロサム的な安全保障の枠組みを乗り越える必要がある。中国の「平和共存五原則」や、バンドン会議に見られる非同盟運動の理念が、新たな統治と外交の枠組みとして再評価されうる。
最後に、著者は「西洋的グローバリゼーション」の終焉を認めつつも、多極的な協調と協力を通じて新たな形のグローバリゼーションがより多くの国々に利益をもたらす可能性があると結論づけている。
本稿の執筆者であるウォーリック・パウエル氏は、クイーンズランド工科大学の客員教授、Taihe Instituteの上級研究員、そして元オーストラリア首相ケビン・ラッド氏の顧問を務めた人物である。
【詳細】
問題提起:グローバリゼーションは本当に終わったのか