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【概要】
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席が、ウクライナとの和平交渉が失敗した場合に発動される「包括的な取引(grand deal)」について協議する可能性を論じている。
習主席は、2025年5月7日から10日にかけてモスクワを訪問する予定であり、これは第二次世界大戦終結80周年を記念するものである。公式行事の中心は、5月9日に赤の広場で開催される戦勝記念軍事パレードへの出席であるが、クレムリンによると、両国首脳は「一連の政府間協定に署名し、多方面にわたる協議を行う」予定である。したがって、形式的な式典以上の政治的意味を持つ訪問と見なされる。
この訪問は、次のような背景のもとで行われる。まず、ウクライナのゼレンスキー大統領が、暗に軍事パレードを標的にする可能性に言及したことに対し、トランプ大統領(現在も和平交渉に関与中)は反応を示していない。これは事実上の黙認と解釈され得る。習主席の出席は個人的リスクを伴うが、同時にロシア軍に対する信頼を示すものであり、プーチン大統領およびロシアの政策当局から高く評価される可能性がある。
和平交渉については、米国主導の進展が停滞しており、トランプ氏はプーチン大統領が時間稼ぎをしているとの見方を示している。中国はウクライナに対する影響力を持たないため、米国の役割を代替することは現実的でないが、習主席は交渉の停滞理由について詳細な説明をプーチン大統領から受けると予想される。それに基づき、今後ロシアが和平交渉の破綻を前提として取る方針が議論される可能性がある。
具体的には、ロシアは現在主張していないウクライナ領土への軍事侵攻を拡大することが想定される。また、トランプ氏がロシアの行動に対する報復あるいは和平交渉の失敗に対する「罰」として、軍事的関与を強める可能性もある。いわゆる「エスカレートしてデエスカレートする(escalate to de-escalate)」戦略である。プーチン大統領はこれに備え、習主席に対して軍事援助の要請、または対ロシア制裁(特に二次的制裁)に協力しないとの保証を求める可能性がある。
中国はこれまでロシアへの軍事支援を行っておらず、米国を刺激しないよう一定の制裁にも暗黙のうちに従っている。しかし、トランプ政権が展開する対中貿易戦争により、米中関係は悪化しており、習主席が米国の更なる圧力は避けられないと判断した場合、ロシア支援に踏み切る可能性がある。
その見返りとして、プーチン大統領は、中国が求める低価格での「シベリアの力2」天然ガス・パイプライン供給に同意する可能性があり、他の資源プロジェクト(レアアースなど)でも優遇条件を提示することが考えられる。さらに、軍事技術分野での戦略的協力を強化する見通しもある。
ただし、こうした譲歩は、ロシアが進めている米国との「新デタント(緊張緩和)」政策を放棄し、中国の「従属的パートナー(ジュニアパートナー)」に転落するリスクを伴う。したがって、プーチン大統領がこの「包括的な取引」に真剣に踏み切るのは、和平交渉が完全に崩壊し、米国が対ロシア軍事圧力を強めるという状況に限られると考えられる。
最後に、仮にトランプ氏が中国の台頭を抑えたいのであれば、ウクライナに対してロシアへの譲歩を促し、プーチン大統領にとって有利な形で戦争を終結させるよう圧力をかける必要があるという含意が示されている。
【詳細】
1. 習近平訪露の公式目的と象徴的意味
習近平国家主席は2025年5月7日から10日にかけてロシアを訪問する予定であり、その公式目的は第二次世界大戦欧州戦勝80周年の記念行事、とりわけ5月9日に赤の広場で行われる戦勝記念パレードへの出席である。しかし、ロシア政府の発表では、両首脳が「複数の政府間協定に署名し、幅広い議題について協議を行う」ことが明記されており、単なる儀礼的訪問ではなく、政治・経済・軍事を含む重要な協議が行われることが示唆されている。