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ロシアとウクライナ間の第三者による和平仲介、特に米国による調整努力が限界に近づいている現状を論じている。その中心には、アメリカが持つ唯一の実効的なレバレッジ(影響力)をどう用いるかという問題がある。
1. 米国の仲介努力に対する期待とその後退
当初、アメリカがロシアとウクライナの間に入り和平を斡旋する可能性に対して国際社会は大きな期待を寄せていた。しかし、その後アメリカ自身の交渉姿勢が硬化し始めたことから、期待は徐々に後退していった。現在では、アメリカはロシアに対しては制裁強化やウクライナへの軍事支援拡大を示唆し、強硬な立場を取っている。一方、ウクライナに対しては、支援停止の可能性をちらつかせる程度にとどまり、圧力が不均衡となっている。
2. 無条件停戦をめぐる提案と応答
ウクライナと西側諸国はロシアに対して「無条件停戦」を要求したのに対し、プーチン大統領はこれに応じる形で「無条件での2国間協議再開」を提案した。これは妥協のように見えるが、実際には意味合いが異なる。プーチンが示した協議の形式は、2022年春のような代表団による形式であり、大統領同士の直接対話を想定していない。さらに、プーチンはゼレンスキー大統領を正統な指導者とはみなしておらず、仮に首脳会談が行われるとしても、ウクライナ側が事前に大きな譲歩を行うことが前提条件とされている。
ゼレンスキーは一応この提案に応じ、プーチンが指定した日(木曜日)にイスタンブールを訪問すると表明したが、プーチン自身が出席するかどうかは明らかでない。
3. ロシアの要求とウクライナの拒否
プーチン大統領の要求は明確である。ウクライナに対しては、以下の4項目を実行することを求めている。
・憲法上の中立性の回復(NATO非加盟の明文化)
・軍事力の縮小(非武装化)
・国内の極右勢力の排除(いわゆる「非ナチ化」)
・ドンバスおよびクリミアを含む係争地域の放棄
ゼレンスキーはこれらの要求を一切受け入れておらず、今後も受け入れる可能性は極めて低いとされる。トランプ大統領も、ウクライナにこれらの譲歩を強要する姿勢を示しておらず、あるいは政治的・戦略的事情からできない状況にある。
4. 米国の真意とロシアの警戒
これまでの米国による仲介の結果として具体的に表れたのは、エネルギーおよびレアアース(希土類)分野における戦略的提携の模索である。これは一見するとロシアとの関係改善を意図したものであるが、ロシア側からすれば、紛争解決そのものではなく「経済的な譲歩と引き換えに政治的要求を棚上げにする」というように映っている。つまり、米国は問題の本質に向き合わず、利害調整で乗り切ろうとしていると受け取られている。
5. 他の仲介者の限界
中国やトルコも和平仲介を試みてきたが、両国ともにロシア・ウクライナ両国に対して強制力のある影響力を持っていない。そのため、現実的に両国に譲歩を迫り得るのは米国のみである。しかし、米国のアプローチはバランスを欠いており、それが第三者による仲介の限界を露呈させている。
6. 今後のシナリオ:エスカレーションの危険性
もし米国がロシアとウクライナの双方に対して対等に圧力をかけないままであるならば、和平交渉は失敗に終わる可能性が高い。その場合、次のような展開が考えられる。
・ロシアが軍事作戦を新たな地域へ拡大する(地上戦の再拡大)
・米国が交渉決裂の責任をロシアに求め、ウクライナ支援を強化する
いずれの展開も、地域紛争をより大規模な衝突へと拡大させるリスクを含んでいる。また、仮に無条件停戦が成立した場合でも、プーチンが他の要求を取り下げることは考えにくく、その間隙を突いて欧州諸国がウクライナに正規軍を派遣する可能性すらある。この場合、ロシアは停戦を逆手に取られたと感じ、さらなる強硬策に出る懸念がある。