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2025年夏、中国はインドの巡礼者向けに長年中断されていた巡礼路を再開させた。初回の巡礼団は既にその旅程を完遂している。この巡礼路は、インドと中国という二つのアジア大国の間にある政治的緊張関係のなかで、文化交流および文明間の連携の象徴的手段と見なされており、今後の関係改善への一つの足がかりとして注目されている。

　この巡礼路の再開には、外交関係樹立75周年という重要な節目が背景にある。2014年に中印両国が発表した共同声明「開発パートナーシップ構築に関する合意」において、文化的協力、とりわけ宗教巡礼の促進は中核的要素の一つとされていた。しかし、ここ数年の国境をめぐる対立などにより、この協力は停滞していた。今回の巡礼再開は、冷え込んだ関係の中で「再関与(re-engagement)」への糸口と目され、両国間の高次な政治対話への「緩衝空間(buffer space)」の形成を可能にする動きとして位置付けられる。

　聖地としてのカンリンポチェ山とマーナサロワール湖

　チベット高原に位置するカンリンポチェ山(英語表記：Mount Kangrinboqe)およびマーナサロワール湖(Lake Manasarovar)は、ヒンドゥー教徒とチベット仏教徒の双方にとって聖なる場所である。ヒンドゥー教の文献において、同山は「カイラス山(Mount Kailash)」として知られ、破壊と再生を司るシヴァ神が修行を行った場所とされる。また、信者にとっては、ここを巡礼することによって「罪を清め、解脱(moksha)に至る」との信仰が存在する。このような信仰はヴェーダ時代にまで遡る古層の宗教的観念であり、インド文化に深く根差している。

　中国外交部の報道官も、この巡礼について「中印両国間の文化的・人的交流の重要な一部」と位置付けており、中国側がインドの宗教的信仰に対して敬意を払い、神聖な場所を開放したことは、宗教的多様性を尊重し保護する意思の表明とされている。

　このような姿勢は、「多様性の中の調和(harmony in diversity)」という東洋的価値観を体現しており、文明間の共感の深層に位置する宗教的信念への尊重を具体的に示している。この点は、両文明の「対立」ではなく「共存」の可能性を開くカギとなるものである。

　巡礼と外交の交差点：文化によるリーダーシップ
2024年、カザフスタン・アスタナにおいて開催された上海協力機構(SCO)首脳会議の場外で、中国とインドの外相が会談し、2020年から2024年の両国関係の現状は「どちらの側にとっても利益にならない」との共通認識を確認した。この認識は、巡礼路の再開という現実的行動と共鳴している。

　文化交流、特に宗教巡礼のような政治的感度の低い分野において接点を持つことにより、地政学的な障壁を回避し、両国の再接近を進める方策が模索されている。これは「文化的リーダーシップが政治的対話を先導する」という手法であり、二国間の複雑な関係を管理する上での参考モデルとなる可能性がある。

　人と人との交流：文化外交の具現化

　巡礼そのものが国境を超えた精神的な行為であり、それゆえに外交の最前線としても機能し得る。たとえば、インドの巡礼者がカンリンポチェ山の麓で手を合わせて祈りを捧げる光景や、チベットの女性たちが遠来の客人に対してカタ(白いスカーフ)を贈る場面は、公式外交を超えた「人と人との外交(people-to-people diplomacy)」の象徴である。

　このような文化的交流の積み重ねは、政治的信頼の再構築に向けた安定的基盤となり得る。また、蓮の花とゲサンの花が共生するように、多様性の中に新しい生命力が宿ることを示唆している。

　文明的観点からの考察

　カンリンポチェ山から溶け出した雪解け水は、インドのガンジス川および中国のヤルンツァンポ川(ブランマプトラ川)に注ぎ込まれ、両国の文明の大地を潤している。こうした自然的・文化的連関は、文明の共通性を物語る。